キネマのマ 〜 りゃんひさ 映画レビューなどなど

アクセスカウンタ

zoom RSS 『小さいおうち』:語られなかったタキの想い @ロードショウ・シネコン

<<   作成日時 : 2014/02/16 10:15   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 1

画像


時代劇三部作以降、日本映画の巨匠たちの亡霊に取り憑かれたかのような映画ばかりを発表していた山田洋次監督。
その山田洋次監督が、久しぶりに自分の映画を撮ったのが、この『小さいおうち』。
太平洋戦争前の昭和11年から終戦の昭和20年までの中流家庭の出来事を描いています。
いやぁ、手ごたえのある映画でした。

昭和11年、18歳のタキは山形の寒村から、東京郊外のおもちゃ会社の重役宅に、女中奉公にやってきました。
そのお宅はご主人と夫人の時子、そして幼い息子がいました。
翌正月、ご主人の部下たちが新年の挨拶にやって来、その中に板倉という美術学校出の青年がいました。
いつしか、時子はその板倉に想いを寄せていきますが、時代は、戦争に進んでいくのでありました・・・

映画は、現代のタキが自身の過去を自叙伝で振り返る、そして、その自叙伝をタキの外孫の大学生が読む、という形式をとっています。

この形式をとることで、この映画にはふたつの要素が含まれてきます。

ひとつは、現代人のみる戦前の生活(イメージと実態の差異)。
もうひとつは、男女間の情愛の機微。

ひとつめは判り易いです。
とかく、戦前の日本の生活は、暗く自由なんてない、というようなイメージを持ちがち。
ですが、意外なほど、能天気であっけらかんとしていたということ。
先日観た昭和14年製作の『鴛鴦歌合戦』からも、そんな雰囲気は窺い知れました。
それは、不穏な空気を感じない鈍感さともいえるでしょう。

もうひとつの男女間の機微。

そんな能天気な中であっても、夫婦は夫唱婦随。
妻が他の男性に惚れるだなんて、もってのほか。
しかしながら、板倉に寄せる時子の想いは、日に日に高まっていきます。
タキはその様子にヤキモキします。
奥様と女中という関係以上に・・・

そう、三角関係の映画。

人目を憚(はばか)りつつも、その想いを発露していく時子。
想いを寄せつつも、じっと内で堪(こら)えるタキ。

「時子とタキ。なんだか似てるわね」とは、初対面での時子の言葉。
まさしく、そのとおり、同じひとりのひとを愛するようになったわけであります。

そう解釈しないとクライマックス、合点がいきません。

出征直前の板倉に、どうしても逢いにいかねばと急く時子。
タキの心は揺れます。
そのときの想いを自叙伝のモノローグでは次のように書かれています。

「逢わせてあげたい。でも、逢わせてはいけない。そんな想いで、わたしのこころは揺れました」

そこには、書かれていないもうひとつの想いが隠されています。
「逢わせたくない・・・」
外孫の大学生が読んでる自叙伝には、真の想いを書き記すことはできないのです。

「逢わせたくない」から、時子が板倉に書いた最後の手紙を、タキは届けなかったのです。

終戦間際の東京大空襲で、時子もご主人も防空壕の中で焼け死んだと、終戦後にタキが聞いたときに流す涙は、後悔の涙。
あぁ、わたしの邪恋が、奥さまを寂しい想いのままで死なせてしまった、と。

さて、タキは終戦後、どのように生きたのでしょうか。
映画では描かれていません。
しかし、少なからず、想像はできます。

タキは、戦地から帰還した板倉と、少なくとも一度(いや二度か)は遭っています。
それはタキのベッドの頭の上に掛けられた「赤いお屋根の小さいおうち」の画が示しています。
描かれた時期から推測すると、昭和30年台半ばに、板倉からタキに渡されています。
(美術館に展示された画と同時期と推測して)

終戦間際に一度郷里に引っ込んだタキは、戦後ふたたび東京へやってきます。
戦地から引き揚げてきた板倉と、戦後の雑踏のなかで再会したのでしょうか。
それとも、もっと後、高度成長期を迎えた東京ででしょうか。

いずれにせよ、タキは時子の死を伝えたでしょう。
ですが、タキは板倉に自分の想いを伝えたのでしょうか。

伝えるならば、どうしてもあの日の、あの出征の日の出来事と、逢わせたくなかったという想いを語らなければなりません。
あのときのことを語らずに、自分の想いを伝えることは、騙ることになってしまう・・・
ならば、伝えない、伝えなかった・・・

時子と板倉を愛する想いと後悔とが綯い交ぜになって、タキに「わたしは長く生きすぎました」と言わしめたのでしょう。

評価は★4つ半としておきます。

<追記>
この映画、ヨーロッパではミステリーに分類されるたぐいの映画ですね。
と、鑑賞から日が経ってしまったので、レビューを書いているうちに、黒木華がベルリン国際映画祭で女優賞「銀熊賞」を受賞という吉報が飛び込んできました。



------------------
2014年映画鑑賞記録

 新作:2014年度作品
  外国映画 6本(うちDVD、Webなどスクリーン以外 5本)
  日本映画 1本(うちDVD、Webなどスクリーン以外 0本)←カウントアップ

 旧作:2014年以前の作品
  外国映画19本(うち劇場 2本)
  日本映画 6本(うち劇場 0本)
------------------

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
なるほど(納得、参考になった、ヘー)

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
久しぶりに見ごたえのある作品に出合いました。映画では描かれていないところを、いい意味で観客にいろいろ考えさせる作品はなかなかありません。登場人物の造形の深さといい、さすが山田洋次監督ですね。
ぷ〜太郎
2014/03/20 23:25

コメントする help

ニックネーム
本 文
『小さいおうち』:語られなかったタキの想い @ロードショウ・シネコン キネマのマ 〜 りゃんひさ 映画レビューなどなど/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる