『あるスキャンダルの覚え書き』:独占欲と疎外感=孤独の坩堝

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ジュディ・デンチ,ケイト・ブランシェット競演『あるスキャンダルの覚え書き』。レビュータイトルは「独占欲と疎外感=孤独の坩堝(るつぼ) 」です。

「彼女の恋の相手は15歳だった」の謳い文句から「『ルイーズに訪れた恋は・・・』のような映画かな」と思ったり、タイトルから「教師と生徒の道ならぬ恋を描いた社会派かな」とも思ったりしたが、その実は、ポスター右端で嫉(そね)み妬(ねた)みの視線を投げかける老女性教師(ジュディ・デンチ扮演)と、投げかけられた若い女性教師(ケイト・ブランシェット扮演)との間の心理スリラーであった。

最近の心理スリラーは、ともすれば「サイコスリラー」というジャンルで一括りされる「常人には理解できない心理状態(いわゆるサイコパス)」を描いたものが多いが、この映画で描かれる心理は、常人にも理解できる範囲の心理状態である。

すなわち、嫉(そね)みと妬(ねた)み、すなわち「嫉妬」である。

若さからは程遠く、自由からも程遠く、美しさからも程遠く、異性から言い寄られることなど望外の「孤独の坩堝(るつぼ)」のジュディ・デンチが、その全てを手にしているかのように思われるケイト・ブランシェットに対して「嫉妬」し、彼女を自分と同じ「孤独の坩堝」の住人にしようとするのがストーリーの骨幹である。

「嫉妬」の原点となる心理状態は、「独占欲」と「疎外感」である。

ジュディ・デンチの「孤独の坩堝」が「疎外感」であり、ケイト・ブランシェットの彼女の唯一の友人でありたい、しかし彼女を自分と同じ「孤独の坩堝」の住人にしたいと願う心が「独占欲」である。

この映画で一番恐ろしかったのは、後半、スキャンダルが暴露され、家族からも孤立したケイト・ブランシェットに対して、自分の家に誘い、それに応じるケイトの傍で、望みが達せられたことは喜び、微笑むジュディ・デンチである。

このシーンは、本当に恐ろしく、恐ろしさの余りに笑ってしまったほどだ。

さて、映画全般を評すると、巻頭から大仰な音楽とスピーディな展開で演出しており、全編92分という最近では短い尺に収まっている。この演出方針で、心理的な「ねっとりネチネチ感」は薄まったが、それを良しとするか否かは、観たひとによるだろう。個人的には、こんなに怖いジュディ・デンチをねっとりネチネチ見せられたらイヤなので、良しのほうだが。全編としての評価は★★★☆(3つ半)といったところ。

それにしてもジュディ・デンチの今回の役ははまり役過ぎて怖い。
『ラヴェンダーの咲く庭で』で、若いダニエル・ブリュールに恋してしまう可愛らしい老婦人の役から、『アイリス』でのアルツハイマー病に冒されていく凛とした女性作家の役など、幅広い役を演じる正に「デイム」の称号に相応しい名女優ですねぇ。

<追記>
妻は「心理的な「ねっとりネチネチ感」の映画だったら2時間でも大丈夫」と言っていた。怖いなぁ。

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この記事へのコメント

satoshi
2007年12月12日 18:26
TBをありがとう。
いわゆるストーカーを超えた怖さがありました。
同じデンチ主演の「ヘンダーソン夫人の贈り物」は見られましたか?
これはとても素敵な映画でしたよ。

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