『武士の家計簿』:実直愚直なお家芸 @ロードショウ・シネコン
2010年下半期は時代劇ブーム。
そのような中で、異色の一編です。
刀ではなく「そろばん」で家族を守った武士のホームドラマです。
さすがに森田芳光監督、目の付け処が違いますますなぁ。
江戸末期、北陸加賀藩の御算用番の侍が、収入の二倍もの借金を抱えた家計を持ち直す。
そのようすを通じて、家族の絆、思いやりを描いていくものです。
この映画のよいところは、主人公を「そろばん」ひとすじの実直・愚直な男として描いたところにあります。
前半で主人公は、藩から飢饉で困窮した藩民に供出した米が、民に渡る前に中抜けして私腹を肥やしている面々がいることを帳簿から突き止めます。
このエピソードが効いています。
実直・愚直であるが故に、正しいことを正しく行う、ということに一本筋が通りました。
ですから、借金まみれの家計を持ち直すさまが、正しいこと、と見えてきます。
家財道具を一式売り払うさまは、一見、横暴に見えますが、ただの緊縮財政、形先行のリストラとは異なります。
芯の通った、真心を秘めた、大胆な行動なのです。
その真心は、次のエピソードで窺い知れます。
ひとつは、家財道具を売り払う際に、たったひとつだけ妻に買ってあげた櫛だけは手放さなくてもよい、というもの。
もうひとつは、一旦は売り払った母の着物、命に代えても手放したくないと嘆いた着物を、母の臨終際に、買受して母に掛けてあげる、というもの。
ホームドラマの定番といえば定番なエピソードですが、ぐっと胸に来るものがありました。
後半は、父と息子の物語になります。
「そろばん」侍として躾けられた息子が青年となったころ、世は幕末、動乱の時代。
息子は、千万の勇猛な武士よりも、後方補給の算用ができることのほうが、はるかに役立つということで、維新の中核を担う存在となっていきます。
「そろばん」こそがお家芸、といい続けていたことが、役に立つわけです。
そろばん侍であることに反発を感じていた息子が、父を敬い、老いた父を背負うエピソードも、定番といえば定番なエピソードですが、これもまた、ぐっと胸に来るものがありました。
才気煥発、異才と呼ばれていた森田芳光監督が、こんなにオーソドックスなホームドラマを撮るとは、変わってきたよなぁ、と感じました。
チャンバラが苦手なりゃんひさには、とても肌に合いました。
評価は★4つです。
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2010年映画鑑賞記録
新作:2010年度作品
外国映画45本(うちDVD、Webなどスクリーン以外10本)
日本映画26本(うちDVD、Webなどスクリーン以外 6本)←カウントアップ
旧作:2010年以前の作品
外国映画90本(うちDVD、Webなどスクリーン以外89本)
日本映画22本(うちDVD、Webなどスクリーン以外20本)
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この記事へのコメント
嫌味のない演出で、でも、人物像はきちんと描けている。森田監督は今まで好きではなかったのですが、この作品で少し見直しました。
これは、どうしようかなぁ~。
毎日常に、そろばんはじいて、切りつめた生活&人生設計してる私としては、
映画館では、もっと大きな、夢のあるお話が見たい気が…
小学校の時(行くと母が、駄菓子を買うお金をくれるので)そろばん塾に通ってました。
そろばんを使うのは、楽しかったデス。