『別離』: 見応え充分だが、憂鬱な気分になった @ロードショウ・シネコン
『彼女が消えた浜辺』のアスガー・ファルハディ監督が、二組の夫婦の間でに起こる事件を通して、ひとそれぞれの心理の複雑さとイラン社会の問題を描いた力作です。
初中年の夫婦、夫は銀行に勤め、娘は中学校に通っている。
一家には、初期の認知症を患った夫の父がいる。
妻は娘の将来を思い、外国での暮らしを希望しているが、夫は父親を見捨てることはできず、国内に留まろうという。
妻は実家へ戻り、別居が始まる。
父親の介護のため、ひとりの女性を雇う。
その女性は身重で、職にあぶれた夫に黙って、働きに出てきた。
そんなある日、認知症の父親が介護の女性の目が届かない間に、街中に出てしまい・・・事件が起こる。
その事件を通しての、二組の夫婦の心理描写が見所です。
ちょっと自分に有利なように、少しだけ真実は隠して、二組の夫婦の間の葛藤が続きます。
見応え充分なのですが、見ているうちに、どことなく厭な気持ちがどんどんと溜まっていって憂鬱になってきました。
たぶんそれは、少しだけ真実を隠す理由が、保身だったり、自分に有利なようにだったりと、すべてが「わが身中心」だからでしょう。
相手を慮っての嘘ではないので、まるっきり共感も共鳴もできないのです。
娘のことを思ってのことが、終いには、娘自身も嘘をつかさざるを得ない状況にまで追い込んでしまう哀しさ。
無職の夫を思ってのことが、コーランを前にして、神に背くか従うかを迫られてしまう被害者の女性の遣る瀬無さ。
身から出たなんとか、ではないのですが、遣る瀬無く、やり切れず、人間どうしの諍いには、神も仏もないものかと、憂鬱な気持ちになってしまいました。
大仰にいうならば「神の不在」を感じる映画でもあります。
ある事柄がキッカケで主人公たちの心が変わっていく、というのは映画の王道でありますが、この映画のようにひとつも善いところに転がっていかず、委ねられた結末の選択肢にも善いものがないというのは、哀しすぎます。
評価は★4つとしておきます。
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2012年映画鑑賞記録
新作:2012年度作品
外国映画 8本(うちDVD、Webなどスクリーン以外 0本)←カウントアップ
日本映画 5本(うちDVD、Webなどスクリーン以外 0本)
旧作:2012年以前の作品
外国映画14本(うち劇場 0本)
日本映画 4本(うち劇場 2本)
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この記事へのコメント
イラン女性のというより、イラン国民の、救われない窮屈さを感じました。
ただ、映画自体は前作よりかなりよくなっているし、監督は腕をあげましたね。