『あなたの名前を呼べたなら』:恋愛を超えた、ひととしての関係性が啓かれる @ロードショウ・単館系

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静かに話題を呼んでいるインド映画『あなたの名前を呼べたなら』、ロードショウで鑑賞しました。
インド映画、と記しましたが、正しくはインドとフランスの合作映画です。
『存在のない子供たち』もレバノンとフランスの合作なので、フランスという国は多彩な国の映画製作を支援してる文化国だなぁと思いますね。
さて、映画。

大都会ムンバイで女中をしているラトナ(ティロタマ・ショーム)。
彼女が仕えるのは大手の建設会社の御曹司アシュヴィン(ヴィヴェーク・ゴーンバル)。
ラトナはアシュヴィンのことを「旦那様(Sir。これが原題)」と呼び、決して名前で呼ぶことはない・・・

というところから始まる物語で、アシュヴィンは婚約者の浮気が原因で結婚を破断したところであり、婚約者とまるで性格の異なるラトナに惹かれていく・・・と展開するが、いわゆる身分差の恋愛物語ではない。
ま、そのような恋愛物語の側面も大いにあるが、監督(脚本も担っている)が狙っているのそこんところではない。

ラトナは、寒村(貧しい村のこと。暑いインドなので寒いわけではない)の出身だが、19歳のときに結婚し、結婚後4か月で夫に先立たれている。
村では、夫に先立たれた妻は「死ぬまで未亡人」で、再婚するなどは赦されず、嫁ぎ先(生家もだが)の家名を汚さないでいるだけの存在で、つまりはただの厄介もの。
また、インドでは厳然たる階級社会(階層社会ではない)で、階級によって就ける職業も決まっている。
近代化目覚ましいインドであるが、旧弊は因習と階級差がある。
因習と階級差は、どのようにあっても破ることはできない。

が、アシュヴィンは米国で教育を受けており、基本的にひとは自由で平等ある・・・と考えている。
それが、また、ラトナを苦しめる・・・

と書くと、ありゃ、身分差の恋愛物語みたいですね。
でも、違いますから。

大きなドラマチックなエピソードはないが、因習と階級とそれに対比される自由と平等のせめぎあいと、それに困惑苦悩するふたりが淡々と描かれていきます。

映画の決着点は、恋愛物語としてのハッピーエンドではないかもしれないが、ひととしてのハッピーエンドであろう。
日本版タイトルが示すとおり、ラトナがアシュヴィンのことを「旦那様」ではなく、「名前」で呼ぶ。
ラトナとアシュヴィンが、ひととしての自由と平等を得、恋愛を超えた「信頼」関係になったことを示している。
静かに、心深く、沁みたラストシーンでした。

評価は★★★★☆(4つ半)としておきます。

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2019年映画鑑賞記録

新作:2019年度作品:58本
 外国映画48本(うちDVDなど 6本)←カウントアップ
 日本映画10本(うちDVDなど 1本)

旧作:2019年以前の作品:62本
 外国映画48本(うち劇場鑑賞12本)
 日本映画14本(うち劇場鑑賞 3本)
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この記事へのコメント

じゃむとまるこ
2019年08月23日 09:24
人としてのハッピーエンド・・・ほんとうにそうでしたね。
★5か4かで迷ったんですが。
抑制のきいた映画は美しい、ということも感じました。
りゃんひさ
2019年08月23日 20:21
じゃむとまるこさん

人としての幸福は、ある種、抑制が効いているのかもしれません。
なので
>抑制のきいた映画は美しい
のだと感じました。
2019年08月23日 20:43
今作、こちらではまだ公開されていないので、楽しみにしている作品です。
確か、インド出身の女性の監督作ですが、アメリカで教育を受けたので、インド内部からだけじゃなく、外部からの視点を取り入れている、という点が斬新で評価されているんですよね。
インドの女性が置かれている現状がよく分かりそうですし、インド映画にハズレは無いので、楽しめそうです。
りゃんひさ
2019年08月23日 20:51
トリトンさん

ついでながら付け加えると、妻がこの映画を観るにあたってネット検索したところ(妻はまだ観ていない)、
現地インドでは、
若者には、概ね良好
年配には、概ね不評とのこと。
年配的には「そもそも御曹司は女中には関心を寄せない。よって、こんな話はありえない」とのこと。
ふーむ、インドの階級社会は根深いです。