『砂の器』:日本映画の「事件もの」の最高峰であろう @午前十時の映画祭

日本映画パンフ_すなの_砂の器.jpg

久しぶりに午前十時の映画祭です。
鑑賞したのは『砂の器』。
1974年の製作で、はじめて観たのはテレビ放映。
原作も読んでいるが、劇場のスクリーンで観るのは初めて。
さて、映画。

昭和46年・夏。
警視庁捜査一課の今西(丹波哲郎)と、蒲田西署の刑事吉村(森田健作)は、秋田県の由利本荘の亀田を訪れていた。
というのも、国鉄蒲田操車場で発見された撲殺死体のその前の足取りで、蒲田のバーで若い男性となにやら言い争っていた形跡があった。
バーの女給の証言では「東北訛りらしいズーズー弁で、カメダがどうとか、カメダはその後どうか・・・」というような会話が交わされていたからである。
被害者の身元は未だ不明・・・

というところから始まる物語で、「そうか! こんなはじまりだったか!」という驚きでした。
原作では、蒲田操車場での死体発見からはじまるので(たぶん、そう。違っているかも)、捜査の刑事ふたりが東北に出張するところから始まるとは思わなかった(ま、かつて一度観てはいるのですが・・・)。

この始まり方、たぶん、抜群に上手い。

結果として、空振り(それも、事件には何ら絡まない)というのは、映画の巻頭としてはセオリー無視のような感じもするが、この映画が公開された昭和40年代は、はじめから映画を観なくてもよかった。
途中から入って、途中で出ることも可能。
何度観てもOK。
なので、映画の冒頭から、重要なハナシを繰り広げるのはヤボ。
そういう時代なわけで。

ま、そんなことは頭の片隅で意識したのかどうかよくわからないが、この冒頭はすこぶる映画的。
怪しい人物を、そこにいないにもかかわらず描写して・・・という、ミステリーのお手本のようなものである。

であるが、東北は事件に関係ない。
その後の調査で、カメダがカメダではないことが判明し・・・と事件の核心に近づいていく。

この映画、当時以上に評価すべきところは、たぶん前半で、若手刑事吉村が国鉄中央線沿線での出来事に目を向け、証拠をつかむあたりは、あまり脚本的に上手くないが、日本各地を年配刑事が訪ね歩くことで、当時の風物が記録されることになった。

いくつかあるが
蒲田駅西口の広場、金沢駅のゼロ番線が残る構内、駅ビルになる前の大阪駅駅前南口の様子など、貴重な映像と言えるでしょう。

で、映画は、執念の捜査の部が第1部、事件のおおもととなる経緯が第2部で、初公開当時がどうだったかわからないが、途中でフェードインする。
これは、この映画で1度だけである。
2時間20分を超える大作1本立てなので、ここで「休憩」だったのだろう。

第2部は、ほとんど浄瑠璃的構成で、情感押し押し。
この映画表現が後世になんらかの影響を与えた感はあるのだけれど、本家であるこの映画では、これを批判することは適切ではない。

ま、犯人の過去のことや心情を、大仰な音楽にのせて説明するのは、野暮ったといいえば野暮ったいが、たぶん、これは親子の「道行」の映像表現だったのだろう。
近松の心中ものの浄瑠璃の雰囲気で、特に、この事件の被害者役の緒形拳が台詞を発するまでは、年配刑事の事件の背景説明は義太夫語りのようである。

なので、この後半を評して、お涙頂戴というのはお門違いで、意識して、お涙頂戴をやっている。
当時のパンフレットで、監督の野村芳太郎は「この後半は、長いワンカットのようなものである」とも言っており、この、年配刑事の語り、情感溢れる音楽、親子の放浪(道行)は長い一幕物なのだろう。

やはり、この後半は泣かされました。

で、である。
この映画を評価するか・・・

日本推理映画の最高峰とする・・・ことはできない。
いくつかの瑕疵があり、あまりにも「推理」的ではない。

が、日本映画事件ものの最高峰かもしれない。
事件とは、事実を明らかにすることだけではなく、その背景の情感を描くことにある・・・というのが事「件」である。
事柄ではなく、「くだんの・・・」「いうところの・・・」であり、これは「みなが感じるところからいえば・・・」みたいなニュアンスがある。

ということで、ほらね、感じるところの物語としての事件の描き方としては、たぶん、最高峰であろう。
ま、個人的には、いくつか疑問は残るのだが・・・

結局、犯人は、やっぱり自己保身なわけ?
(当時の差別的社会環境においてはそうかもしれないが、そんなことはない、みたいな字幕が出るのがよくわからない)。

犯人、隠れて、親に合えばよかったのでは?
(名前も変えて過去も捨てる・・・とは、当時では親も捨てるであり、決別した親とは会えないだろう。なんでもかんでも和解できるなんてのは、最近の幻想のような風かもしれない)

なんて、いくつか不満もあるが、それは、ま、不問としておくのがよいでしょう。

評価は★★★★☆(4つ半)としておきます。

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2019年映画鑑賞記録

新作:2019年度作品:63本
 外国映画53本(うちDVDなど 7本)
 日本映画10本(うちDVDなど 1本)

旧作:2019年以前の作品:68本
 外国映画49本(うち劇場鑑賞12本)
 日本映画19本(うち劇場鑑賞 6本)←カウントアップ
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