『羊飼いと風船』:風船が象徴する、魂と生と性 @ロードショウ

羊飼いと風船.jpg

チベットを舞台にしたペマ・ツェテン監督作品『羊飼いと風船』、ロードショウで鑑賞しました。
映画の国籍は中国。
チベット自治区は中国の自治区なので、中国の政策も色濃く滲みでています。
さて、映画。

チベットの草原地帯。夫タルギェ(ジンバ)と妻ドルカル(ソナム・ワンモ)の夫婦。
タルギェの父、ふたりの息子と羊飼いで生計を立てている。
夫婦には、もうひとり長男ジャムヤンがいるが、彼は寄宿生活で町の学校に通っている・・・

といったところから始まる物語で、牧歌的な雰囲気ではじまる映画。

冒頭の映像は白くぼやけた画面で、ふたりの息子が老いた祖父を風船を通して見ているようである。
が、風船と思われたものは、コンドームを膨らませたもので、幼いふたりの息子は、それを両親の枕の下から盗んできて、風船と思って膨らませていたわけ。
そんな避妊具など使うこともなかった祖父にとっても、ちょっと細長い風船にしか思っていなかったが、父親タルギェは息子から取り上げて、吸っていた煙草の火で割ってしまう。

ここで風船は「性」の象徴であることがわかる。

町の学校で寄宿生活をしていた長男ジャムヤンが休みを利用して帰宅することになる。
彼を迎えに学校を訪れるのがドルカルの妹・シャンチュ(ヤンシクツォ)。
彼女は過去の出来事からいまは出家の身。

迎えにいった学校でジャムヤンの担任教師タクブンジャと出会うが、彼はシャンチュの元恋人。
元恋人といっても、ふたりの恋愛は不倫関係だった。
これが原因でのシャンチュは出家、男の方は離婚し、現在の学校に左遷させられたようだ。
作家を目指していたタクブンジャは、過去のいきさつをもとに小説を書き、出版しており、それはなにがしかの賞も受賞した。
小説のタイトルは「風船」。

ここで風船は、「ひとの想い」「魂」の象徴であることがわかる。

ふたりの息子に最後のコンドームを使われてしまったタルギェとドルカルの夫婦は避妊することなく夫婦生活を営み、結果、ドルカルは妊娠。
4人目の子どもを産むことは法律で禁止されおり、女医師は堕胎を薦める。
産みたい思いはドルカルの中にもある。
しかし、長男ジャムヤンの進学費用の工面もある。
罰金を払って、その上、4人の子どもを育てるほど家計に余裕はない・・・

そんな中、祖父が急死してしまう。
タルギェが高僧から告げられたのは、祖父の魂はすぐにでも転生する、ということ。
タルギェも長男ジャムヤンも、妹シャンチュもドルカルに産むことを薦めるのだが・・・

と物語は、どこか原初的なシンプルさを持ちながら、力強く、それでいて、チベットの置かれた立場、伝統と近代化のせめぎ合いを感じさせます。

夫婦や家庭、男女の物語と並行して、一家の牧畜の様子が描かれるのが興味深く、種牛ならぬ種羊を借りてきての種付けや、羊を運ぶさま(オートバイの乗り手の腹に羊を結わえつける!)など目を引きます。

そして、もうひとつ驚かされるのは、ときおり挟み込まれる、驚くような画面。
冒頭のコンドーム越しの映像もそうなのですが、苦悩するドルカルの表情を水桶に映った像で捉えたショットや、移動シーンを草原にたまった水たまりに映った像で捉えたショット、去り行くシャンチュを見送るドルカルを窓ガラスに映った像で捉えたショットなど、リフレクションの効果を用いたショットがあります。

最後は天空に上る赤い風船が描かれるのですが、それは魂、そして見ている者全員の想い。
上っていく風船を見上げる人々の俯瞰ショットの連続も素晴らしいです。
この俯瞰ショットは伊丹十三監督の『大病人』を思い出し、このようなショットがあるかないかで、映画の印象が変わってくるのかもしれません。

映画全体としては、題材は異なりますが、アルベール・ラモリス監督の『赤い風船』『白い馬』の2本を思い出しました。

評価は★★★★(4つ)としておきます。

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2021年映画鑑賞記録

新作:2021年度作品: 3本
 外国映画 3本(うちDVDなど 0本)←カウントアップ
 日本映画 0本(うちDVDなど 0本)

旧作:2021年以前の作品:10本
 外国映画 7本(うち劇場鑑賞 1本)
 日本映画 3本(うち劇場鑑賞 0本)
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