『ドライブ・マイ・カー』:濱口監督流「村上怪談」 @ロードショウ

ドライブ・マイ・カー.jpg

『寝ても覚めても』の濱口竜介監督最新作『ドライブ・マイ・カー』、ロードショウで鑑賞しました。
原作は村上春樹の同名短編小説。
村上春樹作品、かつてはかなり読んでいましたが、ある時からパタリと読まなくなりました。
なので、本作も原作は未読です。
しかし、短編小説が3時間の映画になるとは! ということで鑑賞前は期待と不安が混然一体。
さて、映画。

舞台の俳優兼演出家の家福悠介(西島秀俊)。
彼が創り出す舞台作品は、著名な戯曲をもとにしているが、世界各国の言語が入り混じる独特のもの。
私生活では20年以上連れ添った妻の音(霧島れいか)と穏やかながらも満ち足りた日々を送っていた。
しかし、ふたりの間に障壁がなかったわけではない。
十数年前に幼い娘を病気で亡くし、落ち込んでいた妻は悠介に隠れて、複数の男と関係を持っていた。
さらに、現在、テレビドラマの脚本家をしている音は、悠介との行為のあと無意識に物語を語りだすという奇妙な性癖があり、それがテレビドラマのもとになっているのだった。
そんなある日、出かける直前の悠介に音は思いつめた様子で「今晩話がしたい」と言い、その夜、遅く帰宅した悠介はくも膜下出血で倒れている音を発見、音はそのまま帰らぬ人となってしまう。
それから2年・・・

といったところからはじまる物語で、ここまでがかなり長いプロローグ。

この後、広島の国際演劇祭でライフワークともいうべき『ワーニャ伯父さん』の演出を任された悠介は愛用の赤い自動車で広島へ向かい、演劇祭の実行委員会から専属ドライバーとして寡黙な女性みさき(三浦透子)が提供されることとなる。
悠介は愛車の中で『ワーニャ伯父さん』の台詞を復唱することを常とし、ワーニャの台詞以外は音が読み上げるテープがその相棒であり、それは音が死んでからもなお続けられている・・・

このどことなく奇妙な物語がどこへ行きつくのか? 個人的には「怪談」だと感じました。

2年前に死んだ妻に囚われてしまった男の物語。
憑りつかれている、といってもいいかもしれません。

悠介に憑りついて離れないのは、「今晩話がしたい」といった音の話。

いつもならば、寝物語として聞いた音の話は、翌日、悠介が改めて語ってみせるのだが、音が死ぬ直前、最後に語った「ヤツメウナギの物語」は、不倫現場を見て見ぬふりをした悠介には語りなおすことが出来なかった。

「今晩話がしたい」と言った音の「話」とは、不倫をしている、という告白話ではなく、悠介が語りなおさなかった「ヤツメウナギの物語」であり、それは映画後半、音の不倫相手のひとりであった若い男優・高槻(岡田将生)の口から語られることになる。
そして、その「ヤツメウナギの物語」には続きがあり、幾重にも重なった死の物語が語られる・・・

このシーン、高槻の口を借りて音がよみがえったようであり、心底ゾッとさせられました。

映画は、音の存在を、彼女の声・言葉というモチーフを使い表現し、悠介の心に呪を掛けています。

その呪を解くのが、みさきとのロングドライブで、北海道のみさきの生家跡にたどり着いたのち、みさきの口から語られる母の死にまつわる物語であり、それをさらにダメ押しするのが最後の『ワーニャ伯父さん』の舞台です。

舞台のエンディングは、娘ソーニャがワーニャに語るセリフで終わるのですが、今回の舞台では、ソーニャを演じる女優は口が利けず、ワーニャに手話で語り掛けるという演出が採られています。
すなわち、ワーニャ演じる悠介に憑りついていた亡妻・音の声は聞こえなくなり、悠介もワーニャ同様に心の平安を得るというダブルミーニング手法。

驚くべき映画の構成、これはすごい。
カンヌ国際映画祭で脚本賞に輝いたのも納得です。

前作『寝ても覚めても』で死神のような恋愛に憑りつかれた女性を描いた濱口監督、今回は、自分自身の疑念と亡き妻の妄念に憑りつかれた男を描くとは!
いやぁ、もう一度、鑑賞したいですね。

評価は★★★★★(5つ)としておきます。

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2021年映画鑑賞記録

新作:2021年度作品:36本
 外国映画20本(うちDVDなど 8本)
 日本映画16本(うちDVDなど 5本)←カウントアップ

旧作:2021年以前の作品:69本
 外国映画44本(うち劇場鑑賞 4本)
 日本映画25本(うち劇場鑑賞 5本)
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この記事へのコメント

じゃむとまるこ
2021年08月27日 00:04
ご覧になられましたか!

何とか、観たい、と思うのですが、大阪、京都とも危険な状態で、大阪はまさに非常事態で。
評価高いですね~。
りゃんひさ
2021年08月27日 23:59
>じゃむとまるこさん

はい、高評価です。行間など、読み込まなければならないところがたくさんありますが、そこも魅力のひとつです。
ぷ~太郎
2021年09月07日 17:25
鑑賞してから時間がたつほどに良さがわかります。傑作ですね。怪談と言う捉え方は面白いです。確かに「寝ても覚めても」も今回の作品も、何かに憑りつかれてしまった人の話といえばそうですね。でも私は、死んだ音は特別な女性とは思わず(多少は変だけど)、多かれ少なかれ女というものはそういうものだし、それに憑りつかれてしまう主人公は、役者ということもあるけれど、ある意味素直なんだなと思ってしまいました。高槻は中身がないから憑りつかれたんですけどね。それを解くのが手話であるという意見は大変面白かったです。
りゃんひさ
2021年09月07日 21:05
>ぷ~太郎さん

いわゆる、観客に解釈の余地を残した映画で、その「余地」というのが現在の映画では難しいです。
映画だけではないかもしれませんが。
傑作、の評価は揺るがない映画ですね、やはり。