『転校生 -さよなら あなた-』:新しい『転校生』は尾道三部作の集大成の趣
大林宣彦監督の『転校生 -さよなら あなた-』、
レビュータイトルは「新しい『転校生』は尾道三部作の集大成の趣(おもむき)」。
監督は、「『転校生』は小林聡美の斉藤一美と尾道以外には考えられない」と語っていたが、『さよなら あなた』の副題を持つ新しい『転校生』は、旧『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』の尾道三部作の集大成の趣(おもむき)を持った作品だった。
本作品は、『酒井家のしあわせ』の好演も記憶に新しい森田直幸扮する斉藤一夫が、離婚した母と二人で、母の故郷である長野県へ引っ越してくる車中から始まる(その前に、しばらく登場しなかった「A MOVIE」のオープニングタイトルが登場する。近作での登場がうろ覚えで不明だが、一時期控えていた時期があったはず)。
オープニングは、尾道三部作との決別を示すとともに、それでも尾道三部作を引きずっているかの如くの設定である。
その後、一夫と一美が入れ替わってしまうまでを、カメラを斜めに傾(かし)げて撮り、短いカッティングで繋いでいくあたりは、年齢を感じさせない導入演出である。カメラの傾きも少年少女の不安定さを表しているに相違ない。
物語の途中までは、
・一美のボーイフレンドが級長で『時をかける少女』の高柳良一を彷彿とさせる
・一美の実家の蕎麦屋(祖父、父母、幼い姪の大家族)の様子をコミカルに描写する
・一夫と母親の関係を丁寧に描く
などの相違はあるものの、旧『転校生』と大きな相違はなく進展する。
しかし、中盤、副題に示す『さよなら あなた』に係わる事件が発覚し、物語は一転、旧『転校生』から離れていく。
☆---<ネタばれとはいえど、バラすのは憚(はばか)りがあるので書きません>---☆
とはいえ、発覚直前に、一夫の魂を有する一美が「さよならの歌」を即興でピアノで弾き語るシーンは美しいが、それ以降を大林宣彦監督は、ただの悲しい、涙をしぼるような演出はしていない。
特に、一美と一夫が、途中、ドサ廻りの旅の一座と合流するあたりは、『野ゆき山ゆき海辺ゆき』の小林稔侍たちを想起させるような幻想的(いまの映画ではあまり見られない奇妙さと懐かしさを持った幻という意味での)なエピソードとなっている。
また、「さよなら あなた」のエピソードと続く「さよなら、おれ。さよなら、わたし」のエピソードも、リリカルな詩情溢れる文学的なセリフで大林マジックに酔わせてくれる。
そして、クロージングを一夫少年の通過儀礼のように描くさまは、大林監督が「男のロマンチズムに溢れた作家」であることを感じさせてくれる。
レビュータイトルでは「尾道三部作の集大成の趣(おもむき)と記したが、
・一夫、一美、一美のボーイフレンドの三人の関係と、成就されない恋は『時をかける少女』を
・即興で「さよならの歌」をピアノで弾き語るシーンは『さびしんぼう』を
・ドサ廻りの旅の一座は『野ゆき山ゆき海辺ゆき』を
・一美の実家のコミカルな蕎麦屋の大家族は、8ミリ時代の短編群を
それぞれ思い出させてくれて、さらに、最後に書かれる未来の子供たちに託した大林監督のメッセージを含めて、さながら大林映画の集大成の感がある。
蓮佛美沙子、森田直幸のいずれも好演。特に森田少年が『酒井家のしあわせ』に引き続き好演している。
迷わず★★★★(4つ)を進呈する。
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