『わが母の記』: 号泣厳禁、抑制の効いた情動 @試写会
久し振りに試写会で観ました。
原田眞人監督の、作家井上靖とその母を題材にした物語です。
巻頭、いきなりビックリしました。
通りを挟んで、豪雨降りしきる中で、軒下で向かい合った男女。
片方は子供を連れた若い母親、もう片方は中学生ぐらいの少年。
シチュエーションは判らずとも、撮り方は小津安二郎監督『浮草』のワンシーンそっくり。
原田眞人監督が小津安二郎に挑戦したのか、と思わせるオープニングです。
このシーンが、少年と母親との長年を経た再会場面だということは後々判るのですが、このシーンの緊迫感はここ数年の日本映画では漲るばかりの迫力であります。
『浮草』では、この豪雨軒下では男女の罵り合いが始まるのですが、この映画ではひとことも発せず、情感を抑えた映画だということを指し示しています。
映画は、幼い頃に母親に見捨てられたと思っている長男と、息子を捨てたことなどないと思っている母親との意志の疎通の物語です。
母親は徐々に老いていき、いまでいう痴呆症の症状を示していますが、息子を捨てたことなど決してなく、縁者に奪われたものだと思っています。
薄れていく記憶の中で、思い出すのは、幼いときの長男のこと。
母が息子を捨てたのかどうかは映画の終盤で明らかにされるのですが、この映画では、そんなシーンでもサラリと描いていきます。
役者の演技を抑え、ロングで引いた画の中で、情感や情動を描いていくのであります。
ふむふむ、と思ったのは、巻頭しばらくして語られる主人公の父親の死とその葬式の場面です。
新仏をまつった墓に参る家族。
その背景で大きくたゆたう雲。
ゆったりとした雲の動き。
おおぉ、この演出は、ジョン・フォードではありますまいか。
しっとりと、泣かせどころ満載な題材を原田眞人監督は役者の情感を抑えて、画作りと編集のリズムで魅せようとしています。
号泣厳禁のこの姿勢、大いに評価をすることとして、★4つとしておきます。
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2012年映画鑑賞記録
新作:2012年度作品
外国映画 4本(うちDVD、Webなどスクリーン以外 0本)
日本映画 4本(うちDVD、Webなどスクリーン以外 0本)←カウントアップ
旧作:2012年以前の作品
外国映画11本(うち劇場 0本)
日本映画 4本(うち劇場 2本)
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