『街のあかり』:男と女の想いは交わらず、正に敗者の物語

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アキ・カウリスマキ監督敗者三部作最終章『街のあかり』のレビュー。

早々に特集上映で観た妻がアキ・カウリスマキ作品には珍しく「余韻がないんだよねぇ」との感想を漏らしていた。おいおい、『浮き雲』と『過去のない男』に続く三部作だぞ、そんなことはないだろう・・・と思って観にいったところ、首肯せざるを得なかった。

先の二作『浮き雲』『過去のない男』では、どちらも「敗者」とはいえ、自分自身に敗れた人の話ではなく、それゆえ、ラストにおいて温かい想いが残る作品であったが、本作品では「まさしく(自分自身にすら)敗者」であり、温かい余韻などをアキ・カウリスマキは描こうとしていないように思われる(本作品とともにカウリスマキが引用するチャップリンの『街の灯』は、人生の敗残者に残酷すぎる物語であることをお忘れなく)。

三年間夜警を勤める地味で冴えない男性・コイスティネンは、ある日コーヒーショップで、自分とは身なりの違うゴージャスな女性ミルヤと知り合う。ミルヤはマフィアの情婦であり、コイスティネンをある策略に引き込もうとしていた。一方、コイスティネンが夜勤後に訪れるホットドッグ売りトレイラーでは、冴えない女主人が彼に好意を抱いているが・・・・。

というのが、ストーリーのアウトラインである。

主人公コイスティネンは「地味で冴えない」と記したが、見方によっては、まあイイ男ともいえる。が、仲間からは相手にされていない。不明だが、「愛想が悪い、付き合いが悪い」「実は字が読めない」「頭が悪い」などの理由が感じられる(ように演出されている)。

その主人公は、その実、成功を夢見ている。ホットドッグ売りの女主人には「いつか自分の会社を持つ」との夢を語っている。
そこへ現われるゴージャスな女ミルヤ。自身の成功の体現化のような存在だ。

映画は、その後、コイスティネンとミルヤの境遇と物語を交互に語っていく。

むむむ、これまでのカウリスマキだったら、ストーリーの展開はコイスティネンとホットドック売り女主人に絞っていくはず。それが、紋切り型を承知で、コイスティネンとミルヤの物語をカットバックしながら見せていく。

思惑を含んだミルヤと、女にぎこちないコイスティネンの視線は交わされない。
当然、想いが届かないホットドッグ売りの女主人とコイスティネンも視線が交わらない。
これまでのカウリスマキだと、コイスティネンとホットドッグ売りの女主人との、疵を分かち合った同士の物語として進んでいくところなのだが・・・。

このコイスティネン、ミルヤ、ホットドッグ売りの女主人の視線の交差がないこと(想いが届かないこと)が、先の二作『浮き雲』『過去のない男』と明らかに異なるところだ。

明らかに今回のカウリスマキは厳しい。

初めて口紅を塗ってそこそこ着飾ったホットドッグ売りの女主人が登場するのは、コイスティネンの裁判の場である。
その着飾った彼女にコイスティネンは視線すら送らない。

むむむむ。

コイスティネンは2年間の刑務所送りである。
出所してからも生活はままならぬ。

ままならぬ生活でも、成功する夢は捨てきれない(簡易宿泊所の隣のベッドの男と共同事業する云々と、裁判所の時と同様着飾って訪ねてきたホットドッグ売りの女主人に配慮のない言葉をかけたりする)。

コイスティネンはアルバイト先のレストランで、ミルヤとマフィアのボスが同衾しているのを目撃し、短絡的に復讐を思い立つ。

復讐に敗れた彼の元へホットドッグ売りの女主人が駆けつけてくるのだが、コイスティネンは駆けつけてくれた彼女のことよりも、「俺はこんなところで終わる男じゃない」と言い放つ。

ホットドッグ売りの女主人は、やさしくコイスティネンの手を握り・・・。

といえば、『浮き雲』『過去のない男』同様、希望のある終わりと捉えることが出来なくもないが、二人は顔を合せない、視線は交わさない。握られた手は、素早くフェードアウトして画面から消えていく。

すなわち、彼女が「あなたのことが心配なのと思ったかどうか」、男が「それを理解したかどうか」は描かれない(というか、描いていない)。

慮(おもんぱか)る想いは誰にも通じない。

よって、妻が感じた「余韻がないんだよねぇ」は当然であり、『浮き雲』で描いた人間賛歌も、『過去のない男』で再生ドラマも描いていず、感動的なヒューマンドラマなんて意図しない本作は、正に「敗者三部作」の最後を飾るに相応しい「芯まで敗者の物語」といえよう。

<追記>
全体の評価としては★★★☆です。万人にそこそこお薦めできる作品ではないと思っていますので。

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