『かくも長き不在』:記憶や時間が、どれほど人間を形づくっているのか @DVD・レンタル

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1961年のカンヌ映画祭最高賞パルムドール受賞作『かくも長き不在』、DVDで鑑賞しました。
マルグリット・デュラスの脚本をアンリ・コルピが監督したもので、映画を観るのは今回が初めてだけれど、30年ほど前にデュラスの脚本を読んだことがある。
そのときは、ト書きが少なく、情況がよくわからなかったという苦い想い出がある。
さて、映画。

第二次世界大戦が終結し、15年経ったフランス・パリ。
巴里祭に湧く街は、すぐに夏のバカンスシーズンを迎え、閑散とし始める。
セーヌ河畔に近いカフェの女主人テレーズ(アリダ・ヴァリ)は独り身。
親切にしてくれるトラック運転手のピエール(ジャック・アルダン)に絆されているが、彼と所帯を持つまでには至らない。
そんなとき、、朝と夕方、店の前を通るホームレス(ジョルジュ・ウィルソン)の姿をみとめて、心穏やかでなくなる・・・

といったところからはじまる物語で、98分の尺のうち、テレーズが心穏やかでない理由が明かされるまでに3分の2近く割かれている。
そこまでの描写は、ひとつひとつが長く、観ている側はじりじりとしてきます。

そのうち、朝夕、雑誌類を拾って切り抜きをする件のホームレスは記憶をなくしており、テレーズは彼を戦争中、ナチスドイツの捕虜となり、そのまま行方不明となった夫アルベールだと確信していることがわかってきます。
しかしながら、街の人々は、彼はアルベールではない、よしんばアルベールだとしても記憶をなくした現在では元の彼ではない、とテレーズに言いますが、テレーズは耳を傾けません。

その後、テレーズは男の記憶をよみがえらせようと、オペラの楽曲を聴かせたり、故郷の親類を呼んで、過去の幸せな日々やナチスに捕まえられた経緯などを声高に語りますが、男の記憶は戻らない。
ふたりで夕食をとり、ダンスをしても、戻らない。

店内のジュークボックスのレコードの何枚かのレコードをオペラに入れ替え、男にオペラを聞かせた後や、ダンスの際の音楽を奏でた後、ジュークボックスのレコードが演奏を終えてアームで元に戻るショットは、何気ないショットだけれど、もう終わり、何も思い出さない・・・そんな思いが、音楽が終わるだけでなく、動きであらわされていて秀逸。
そして、故郷の親類たちが声高に語る横で、黙々と古雑誌から写真を切り抜く男を同一フレームに収めた長廻しも秀逸。
何も思い出さない、大きく横たわる空白の時が映し出されているよう。

それと、対比するかのような、男が行う切り抜きという行為。
空白のときを埋めようとしているのか、それともいまから新たな時を記録しようとしているのか・・・

そして、映画のクライマックス。

夕食を済ませた男がテレーズの店を出たとき、やはり彼はアルベールだと思った街の人々から次々とかけられる言葉。
アルベール! アルベール!
耳を傾けず、そのまま去って行こうとする男に、誰かが「アルベール、止まれ!」と叫ぶ。

瞬時に男の脳裏に過去が蘇り・・・
このシーンには戦慄を感じます。

男が思い出したのは、ナチスドイツに背後から追い詰められた過去。
両手を上げる男・・・

テレーズが思い出してほしかった過去とは、別の過去。そして・・・

結果、テレーズに訪れる「時」は、行方不明の夫の帰還を待つよりも、さらにさらに長い不在の時間。

この映画、やはり、名作です。

戦争の傷跡もさりながら、人間にとっての記憶や時間というものが、どれだけ人間を形づくっているか、そんなことを考えさせられました。

評価は★★★★☆(4つ半)としておきます。
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2018年映画鑑賞記録

新作:2018年度作品:46本
 外国映画37本(うちDVDなど 3本)
 日本映画 9本(うちDVDなど 0本)

旧作:2018年以前の作品:43本
 外国映画36本(うち劇場鑑賞 4本)←カウントアップ
 日本映画 7本(うち劇場鑑賞 1本)
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この記事へのコメント

ぷ~太郎
2018年07月24日 14:32
かなり昔にTVで見ました。、夫だと思われた男性の頭には何か手術された後(「カッコーの巣の上で」のような)があったように記憶していますが、違いますか?
2018年07月25日 21:32
ぷ~太郎さん、コメントありがとうございます。
男の後頭部の傷はナチスの拷問の結果だと思います。
ロボトミー手術とは違うと思うのですが・・・
もしそうなら、それはもっと恐ろべしい話になってしまうわけですが・・・

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