『彼らは生きていた』 :戦争の実相は100年前も変わらない @ロードショウ
ことし1月末から公開のドキュメンタリー映画『彼らは生きていた』、ロードショウで鑑賞しました。
劇場を変えてのムーブオーヴァー上映です。
さて、映画。
第一次世界大戦時の記録映像を、デジタル化技術により修復・補正・カラーライズを行った上で、音声は帰還兵たちのインタビュー音声を修復して用いたという気の遠くなるような作業を費やしてのドキュメンタリー映画。
いわゆる現在進行形的なドキュメンタリー映画とは一線を画す、考古学的発掘の博物館的ドキュメンタリー映画で、その修復技術もさることながら全体の構成も見事。
大戦初期、若年層たちへ募集し、そしてまだ基準年齢にも達しない者たちも兵として採用した時期。
その後のブートキャンプ(新兵訓練)時期。
このふたつは、修復はされているがモノクロ映像のまま。
とにかく、若者たちの危機意識を煽るポスターなどの広報が凄まじい。
そして、その後、前線へ。
ここからがカラーライズされた映像になり、爆音轟くさま、塹壕のぬかるみ、累々とした屍・・・と、ほとんど目を背け通しになるか、瞠目しっぱなしになるかのどちらかの映像が続きます。
この生々しさは、CGでつくられた戦争映画では出てこない。
4時間哨戒行動についたら、その後、8時間だか休憩につくとか、4日前線を務めると1週間ばかり後方作業につくとか、そこいらあたりの態勢は初めて知りました。
もしかしたら、現在のブラック企業のほうが、もっと勤務時間は長いとも思われるが、こちらは生死の境での務めなのだから、これでも過酷。
過酷な前線を離れたときには、生を謳歌するといわんばかりの様子が微笑ましいが、これとても刹那の出来事。
この謳歌する生の部分を拡大して、後に戦争喜劇がつくられることになるわけですね。
そして、運よく生き残って戦地を離れ帰還した後、が再びモノクロ映像。
前線の過酷さをわかってくれるような銃後の人々は少なく、世間からスポイルされてしまうのが常だった・・・
ああ、こういう描写は、後の米国のベトナム戦争後遺症映画で頻繁に描かれていたものだ。
こうやってみると、戦争の実相は、第一次世界大戦の頃からほとんど変わっていないように感じる。
逆にいえば、戦争の実相は変わらない、ということに改めて気づかせてくれる映画でもある。
もし、見比べるとするならば、新作の『1917 命をかけた伝令』よりも、旧作『西部戦線異状なし』をお薦めしたい。
あちらはドイツ側から描いた映画だけれど、ほぼこの映画で示されたことが描き尽くされている。
評価は★★★★☆(4つ半)としておきます。
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2020年映画鑑賞記録
新作:2020年度作品: 29本
外国映画21本(うちDVDなど 1本)←カウントアップ
日本映画 8本(うちDVDなど 0本)
旧作:2020年以前の作品: 28本
外国映画15本(うち劇場鑑賞 2本)
日本映画13本(うち劇場鑑賞 0本)
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この記事へのコメント
映画館で観たい映画ですので間に合われて良かったです。
100年前も変わらない・・・というのはとても現実的だということですね~、生還しても末端の兵士は報われることがない、子供のころ何度かみた傷痍軍人の方を思い出しました。
サム・メンデスの映画とほぼ同時公開でしたが、こちらを先に観ると、フィクションのほうはとてもひ弱く感じるでしょう、私は後で観たので正解でした。
そういえば、わたしの幼い頃にも傷痍軍人の姿はみました。末端の兵士は、ほとんど報われることがありませんね。本作、英国アカデミー賞のドキュメンタリー賞を受賞していましたね。
いい意味でドキュメンタリーっぽくない感じなのでしょうか?
やっぱり見てみたくなりました。
お勉強的な意味でのドキュメンタリーっぽくはないです。とはいえ、学び知るところは大きいですが。
機会があれば観てくださいませ。