『風の電話』:長い長い電話のワンショットは、哀しみを受け容れるための時間 @DVD
ことし1月にロードショウされた日本映画『風の電話』、DVDで鑑賞しました。
監督は諏訪敦彦。
「すわ・のぶひろ」と読む難読監督のひとり。
『2/デュオ』(1997)や『M/OTHER』(1999)など、シノプスのみで詳細な脚本を書かず、即興演出で撮る監督で、『不完全なふたり』(2005)などの海外作品もある。
さて、映画。
広島に住む伯母(渡辺真起子)の家で暮らしている高校生のハル(モトーラ世理奈)。
8年前の東日本大震災で被災し、ともに暮らしていた家族は行方不明のまま。
故郷の岩手県大槌町も復興が進み、一度もどって見てみるのもいいかも・・・と伯母と話していた矢先、伯母が倒れてしまう。
不安と悲しみから我を忘れ、道端で気を失ってしまったところ、偶然軽トラックで通りかかった男性(三浦友和)に救われるが、男は数年前に離婚、認知症の母とふたり暮らしだが、その家は2年前の土砂災害で奇跡的に流されずにすんだ、と語る。
駅まで男におくられたハルは、伯母のもとへは戻らず、ひとり、故郷・大槌町に戻る決意をする・・・
といったところから始まる物語で、主人公ハルのロードムーヴィの形をもって映画は語られる。
ほとんどが長廻し演出で、諏訪敦彦監督得意の即興演出だろう。
なので、エピソードの繋ぎが幾分ぎこちないが、それぞれのエピソードで語られる内容はリアルに感じられます。
その後ハルが出逢うのは、
臨月近い妊婦(山本未來)とその弟、
駅前でひとりいるところ、よからぬ青年たちに絡まれているところを助ける男性・森尾(西島秀俊)、
そして、森尾と同道する途中で出会うクルド人難民一家。
映画が進むうちに森尾は、震災の際、福島第一原発に勤務し被災、彼の家族もいまだ見つかっていないことがわかる。
森尾一家が暮らした新築の戸建て住宅は荒れるにまかされている。
実家で暮らして両親(父・西田敏行)は、一旦、避難はしたものの、やはり故郷で暮らしたいとの想いから帰郷したが、戻ってきたのは老人ばかりだと嘆く・・・
と、不幸に出遭い、乗り越えられないままでいるひとびとが登場するので、みていてつらいのだけれど、惹きこまれていくものもある。
大槌町に戻ったハルは、復興された駅前でひとりの女性と会うが、彼女はハルの友だちの母親。
ハルと友だちは、震災の際、一緒に居、手をつないで逃げたが、途中でハルは手を放してしまった・・・
その友だちも、いまだ見つかっていない・・・
基礎部分だけが残った自宅へ戻ったハルは、「帰って来たよ、ただいま」というが、当然にして返事はない・・・
と、終盤にきてもまだ、タイトルの「風の電話」は登場しない。
「風の電話」が登場するのは、この後なのだが、物語的にはエピローグのようにも見えるが、ハルが電話を通じて家族に語りかけるシーンはクライマックスである。
長い長いワンショット。
その長さは、喪ったひとびとを受け容れるために必要な長さの表れなのだろう。
観る前に想像していた映画とはずいぶん違ったものだったが、印象深い映画でした。
出演陣はいずれも素晴らしいです。
評価は★★★★(4つ)としておきます。
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2020年映画鑑賞記録
新作:2020年度作品: 87本
外国映画64本(うちDVDなど24本)
日本映画23本(うちDVDなど 5本)←カウントアップ
旧作:2020年以前の作品: 70本
外国映画60本(うち劇場鑑賞 8本)
日本映画30本(うち劇場鑑賞 5本)
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この記事へのコメント
トリトンさん向きではないと思いますが、日本映画の取捨選択は難しいです。
個人的には、東宝配給作品はスルーが多いです(笑返し!)
たしかに、わたしも「主人公が風の電話を目指して行く話」かと思っていましたが、そんな話ならばベタなので
遠慮しようかと思っていました。
災難を乗り越えるには、時間がかかるということが如実にわかる映画でしたね。