『灰とダイヤモンド』: 奥深い物語と鮮烈な映像表現の傑作 @午前十時の映画祭

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TOHOシネマズで毎年実施の午前十時の映画祭。
ラインナップに『灰とダイヤモンド』があったので、出かけて鑑賞しました。
監督はポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ
『世代』『地下水道』に続く「抵抗三部作」と呼ばれる三本の3本目。
まだ、高校生だった80年代はじめに、他の2本と併せての連続上映で観ているので、35年ぶりの再鑑賞です。
1957年の製作なので、製作から60年以上経っているということになりますね。
さて、映画。

1945年5月8日、ドイツが全面降伏した日である。
ポーランドのある地方都市のこと。
ロシアから戻った共産党地区委員長のシュチュカ(バクラフ・ザストルジンスキー)がこの地を訪れることになっていた。
反共側の軍人アンジェイ(アダム・パウリコフスキー)と青年マチェク(ズビグニエフ・チブルスキー)は、聖母マリアの礼拝堂付近でシュチュカを暗殺する手筈になっていたが、人違いによって一般市民ふたりを殺してしまう・・・

というところからはじまる物語で、その後、協力者の市長秘書からシュチュカがホテルで開かれる戦勝祝賀会に出席することを聞き、逃亡予定の明日の朝までに暗殺することを決心する・・・と展開する物語は、サスペンス要素の強い物語。
映画は、そんなサスペンス物語に、定石のひとときの恋愛譚を絡ませながら、当時のポーランドの社会情勢を厳しく描いていきます。

第二次世界大戦前にポーランドは、東はドイツ、西はソ連に分割統治され、もともとのポーランド政府はパリだかどこかに亡命している。
映画でも何度も話題にのぼるワルシャワ蜂起は、1944年にドイツ占領下のワルシャワでポーランド市民軍によって起こったものだが、ソ連は市民たちに「蜂起せよ」と呼びかけ続けるだけで実質的な支援がなく、反撃に出たドイツ軍によってワルシャワは壊滅的になってしまう。
つまり、ポーランド国民にとっては、ドイツも憎いが、ソ連も憎い。
しかし、一部の共産党員は、ソ連と結託し、いい思いをしている・・・そんな共産党員たちも憎い。
そういう時代背景である。

そこのところは、この映画を観るだけではわからないが、そんな思いの端々は物語のエピソードに現れている。
さらに、製作当時は共産党による支配が続いており、映画製作には検閲があった。

そういうことがわかると、この映画、すこぶる面白い。

ひとつは、青年マチェク。
反共の暗殺者は、共産党地区委員長シュチュカの暗殺に成功するが、最期は掃き溜めのようなところでボロ屑のように死んでいく。
党本部では、ざまあみろ、なのだろうが、観客は違う。
酒場の女給クリスティーナ(エヴァ・クジイジェフスカ)と短い恋が、彼の短かった人生にきらめきを与え、果たせない夢に共感を抱く。

もうひとつは、暗殺の協力者、市長秘書の青年。
市長が厚生大臣としてワルシャワにゆくのに同行でき、このまま高い地位を獲得できると喜んでいたが、酔っぱらった挙句に祝賀会をめちゃくちゃにし、結果、市長からは見捨てられる。
党本部としては、裏切者・卑怯者はざまあみろ、なのだろうが、観客は違う。
市長秘書の青年も、市長も党地区委員長も、同じ穴の狢(むじな)。
下劣な輩たちが、牛耳っているにちがいない、と思って、笑って留飲を下げる(中盤のこのエピソード、かなり尺を割いているのには、そういう理由がある)。

さらに、社会情勢をドラマに組み込む仕掛けとして、シュチュカの息子の存在。
彼は、シュチュカの妻の姉のもとに預けられて育ったが、その家の家長(妻の姉の夫)は反共軍人で、今回の暗殺の首謀者。
そして、シュチュカの息子そのものも反共活動をしている。

こんな盛りだくさんの内容に加えて、鮮烈でエッジの効いたショットのオンパレード。

列挙すれば、
・冒頭の暗殺失敗のシーン(カット割りの巧みなこと)

・暗殺失敗がマチェクとアンジェイにわかるシーン(画面分割のようなパンフォーカス)

・マチェクとクリスティーナの情事シーン(ふたりのアップだけなのだが、挟みこまれる溶暗で、ことが行われていることがわかる)

・マチェクがクリスティーナに明朝経つと告げる破壊された教会のシーン(天井から、後光を称えたキリスト像がさかさまにぶら下がっている)

・シュチュカの暗殺、絶命寸前のシュチュカがマチェクに近づき、ふたりは抱き合うような恰好になるシーン(背後にお祝いの花火があがるがデ・パルマの『ミッドナイトクロス』そっくりである)

そして、最後が撃たれたマチェクが逃げ惑うシーン。
洗濯物のシーツの陰に隠れ、腹を抑えたマチェク。にじみ出る血・・・
最期、掃き溜めでもがき苦しみ、のたうち、ボロ屑のように死んでいくマチェク・・・

アンジェイ・ワイダ=政治映画の監督、お堅い監督のイメージがどうしても払拭することができなかったのだけれども、こんなに鮮烈な映像を撮る監督だったのか、と考えを改めました。

評価は★★★★★(5つ)です。

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2018年映画鑑賞記録

新作:2018年度作品:61本
 外国映画50本(うちDVDなど 2本)
 日本映画11本(うちDVDなど 0本)

旧作:2018年以前の作品:63本
 外国映画56本(うち劇場鑑賞13本)←カウントアップ
 日本映画 7本(うち劇場鑑賞 1本)
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